辺境からの救援信号が届いてから二日が過ぎた。蒼太とルナが月面基地で対策を練る中、彼らの元には予想外の来訪者たちが次々と姿を現していた。

 最初に現れたのは、アンドロメダ配送ギルドの配達員たちだった。リーダーの北条雄一は、蒼太の一年先輩で、無骨な外見とは裏腹に繊細な心を持つ男だった。

「橘、お前一人でなんとかしようなんて考えてないだろうな」

 北条の言葉に、蒼太は小さく首を振った。

「一人じゃない。ルナがいる」

「それだけじゃ足りないって言ってるんだ。辺境信号の解析データを見せてもらったが、これは一つの配達チームで対処できる規模じゃない」

 北条の後ろには、見覚えのある顔が並んでいた。木星航路を担当する佐藤、土星圏の配達で名を馳せる田中、そして意外にもタイタンの新人配達員である鈴木まで。総勢八名の配達員が、それぞれの担当区域を離れてここに集まってきていた。

「みんな、どうして」

「決まってるじゃないか」佐藤が照れたように頬を掻いた。「お前の噂は宇宙中に知れ渡ってる。人工生命体と本当の信頼関係を築いた最初の配達員だって」

 ルナが驚いたように目を見開く。彼女はまだ、自分と蒼太の絆が他の人々にどれほどの希望を与えているかを理解していなかった。

 続いて現れたのは、ケイが率いる月面技術者チームだった。

「データ解析とシステム構築なら任せて」ケイが自信に満ちた笑みを浮かべる。「それに、私も連れてきたい人がいるの」

 ケイの背後から現れたのは、小柄な青年だった。彼の周囲には淡い光が漂い、明らかに人工生命体であることが分かった。

「初めまして。僕の名前はコード。ケイさんの研究室で生まれました」

 コードは礼儀正しく頭を下げた。彼は知識欲から生まれた人工生命体で、ケイの研究を手伝ううちに彼女と深い信頼関係を築いていた。

「コードは情報処理能力が桁違いなの」ケイが誇らしげに説明する。「辺境信号の解析も、彼なしでは不可能だった」

 その時、基地の扉がさらに開いた。現れたのは、蒼太も驚くような顔ぶれだった。

「よぉ、蒼太。久しぶりだな」

 声をかけてきたのは、かつて蒼太が木星で出会った老配達員の山田だった。彼は既に現役を引退していたはずだが、古い配達用スーツに身を包み、相棒の人工生命体エコーを連れていた。

「山田さん、どうしてここに」

「馬鹿野郎。宇宙の危機だってのに、黙って見てられるか」山田がガハハと笑う。「それに、エコーがどうしても来たいって言うんでな」

 エコーは郷愁から生まれた人工生命体で、古き良き宇宙配達の時代を体現したような存在だった。彼女は蒼太を見つめると、温かい笑顔を向けた。

「蒼太さんとルナさんの絆を見て、私たちも勇気をもらったんです。今度は私たちが、その絆を守る番です」

 続々と集まってくる仲間たちを見て、ルナの胸に込み上げるものがあった。これまで彼女が知っていたのは、蒼太という一人の人間との繋がりだけだった。しかし今、目の前には人間と人工生命体が手を取り合う、新しいコミュニティの形が生まれようとしていた。

「こんなにも多くの人が」ルナが感動で声を震わせる。

「これがお前の力なんだ、ルナ」蒼太が優しく言った。「お前が最初に示した勇気が、みんなの心を動かした」

 基地の中央ホールには、いつの間にか三十名を超える人々が集まっていた。配達員、技術者、研究者、そして彼らのパートナーである人工生命体たち。年齢も出身も様々だったが、全員の目に共通するものがあった。希望だった。

 北条が立ち上がり、声を張り上げた。

「よし、それじゃあ正式にチームを結成しよう。名前は何がいい?」

「星降る夜の守り手たち、なんてどうでしょう」エコーが提案した。

「いいね」ケイが頷く。「私たちが守りたいのは、この星降る夜の美しさと、その下で育まれる絆だから」

 蒼太とルナは顔を見合わせて微笑んだ。つい数日前まで、彼らは二人だけの小さな世界にいた。しかし今、その世界は大きな輪となって広がっていた。

 山田が咳払いをして、皆の注意を引いた。

「さて、チーム名も決まったところで、作戦会議といこうじゃないか。残り時間は六十時間を切った」

 コードが中央のホロディスプレイを操作すると、辺境からの信号データが立体的に表示された。

「信号源の正体について、新しい発見があります」コードが報告を始める。「これは単一の文明からの信号ではありません。少なくとも十二の異なる文明が、同時に救援を求めています」

「十二の文明?」佐藤が驚く。

「はい。そして興味深いことに、その中には人工生命体文明も含まれています」コードの言葉に、ルナが身を乗り出した。

「私たちと同じような存在が?」

「そうです、ルナさん。感情エネルギーから生まれた知的生命体の文明が、遥か彼方の星系に存在しているのです」

 ホールが静寂に包まれた。人工生命体が独自の文明を築いているという事実は、すべての常識を覆すものだった。

 ケイが深刻な表情で口を開いた。

「それらの文明を脅かしている暗黒エネルギーって何なのかしら」

「それについても、少し分かってきました」コードがデータを切り替える。「この暗黒エネルギーは、存在そのものを否定する力のようです。物質も、エネルギーも、そして感情さえも消去してしまう」

「虚無ってことか」山田が唸った。

「はい。まさに虚無そのものです。そしてこの虚無は、なぜか感情エネルギーに強く反応します。特に、愛や希望といった強い絆から生まれるエネルギーに対して、激しく襲いかかってくるのです」

 蒼太が立ち上がった。

「つまり、俺たちのような存在は、その虚無にとって最大の脅威だということか」

「そういうことになりますね。だからこそ、辺境の文明たちは私たちに救援を求めているのでしょう」

 ルナが蒼太の手を握った。

「私たちの愛が、宇宙の希望になるなんて」

「重い責任だな」北条が腕を組んだ。「だが、やりがいもある」

 そのとき、基地の通信システムが新しい信号を受信した。しかし今度は辺境からではなく、地球からだった。

 スクリーンに映し出されたのは、宇宙配達ギルドの最高責任者である理事長の姿だった。

「諸君、お疲れ様」理事長が厳粛な表情で語りかける。「君たちの活動は既に地球政府にも報告されている。そして今、地球と月の全ての宇宙配達員に緊急召集がかけられた。史上初の、宇宙規模の配達任務の開始だ」

 ホールにいる全員が息を呑んだ。

「任務内容は、辺境星系の文明救済。そして宇宙を脅かす虚無エネルギーの阻止。橘蒼太、君のチームを中核として、総勢五百名の配達員と、彼らのパートナーである人工生命体たちが出動する」

 蒼太が一歩前に出た。

「理事長、俺たちは」

「君たちの決意は分かっている。だが一つだけ約束してほしい。必ず全員で帰ってくることだ。宇宙には、君たちの帰りを待っている人々がいる」

 通信が終わった後、ホールは静寂に包まれた。やがて、ルナが小さくつぶやいた。

「こんなにも多くの人が、私たちと共に戦ってくれるなんて」

 彼女の目には涙が浮かんでいた。しかしそれは悲しみの涙ではなく、深い感動の涙だった。

 蒼太が皆を見回した。

「明日の夜、虚無との戦いが始まる。でも俺たちは一人じゃない。この絆があれば、きっと勝てる」

 その時、基地の窓の向こうで、新たな流星群が夜空を彩った。しかしそれは美しい流星群ではなく、虚無の先遣隊だった。

 最終決戦の時が、静かに近づいていた。

星降る夜の配達屋

46

新たな仲間たち

星野 宙音

2026-05-05

前の話
第46話 新たな仲間たち - 星降る夜の配達屋 | 福神漬出版