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群像劇

最後の客

橘川真一 | 2026-03-23

コンビニの深夜シフトで働く田中は、いつものように蛍光灯の白い光に包まれながらレジに立っていた。時刻は午前二時を回ったところで、客足もすっかり途絶えている。

 自動ドアが開く音がして、初老の男性が入ってきた。髪は薄く、疲れた表情を浮かべている。男は缶コーヒーを一本手に取ると、レジに向かった。

 「いらっしゃいませ」

 田中が機械的に挨拶すると、男は小さく会釈を返した。会計を済ませる間、二人の間に言葉はない。男は缶コーヒーを受け取ると、店の奥の椅子に座り、ゆっくりと飲み始めた。

 十分ほど経った頃、今度は若い女性が入店した。看護師らしく、白衣の上に薄いカーディガンを羽織っている。彼女は弁当コーナーで立ち止まり、長い間商品を見つめていた。やがて一つの弁当を選ぶと、レジに向かう。

 「夜勤お疲れさまです」

 田中が声をかけると、女性は驚いたような顔をした後、疲れた笑みを浮かべた。

 「ありがとうございます。同じですね」

 女性もまた、店内の椅子に座った。男性とは離れた場所を選んだが、時折、男性の方を気にしているようだった。

 三人目の客は、大学生らしい青年だった。アルバイト帰りなのか、コンビニの制服を着ている。彼はエナジードリンクとおにぎりを購入すると、やはり店内で食事を始めた。

 午前三時が近づく頃、四人目の客がやってきた。中年の女性で、手には小さな花束を持っている。彼女は何も購入せず、ただ店内を見回すだけだった。

 「すみません、お手洗いをお借りできますか」

 女性の申し出に、田中は快く応じた。女性がお手洗いから戻ると、他の三人の客と目を合わせ、静かに頷いた。

 その瞬間、田中は気づいた。四人の客は皆、どこか似た雰囲気を持っていた。疲労の色は同じでも、その奥に共通する何かがあった。

 「お疲れさまでした」

 中年女性が田中に声をかける。他の三人も立ち上がり、レジの前に集まってきた。

 「今夜も、ありがとうございました」

 初老の男性が言った。看護師の女性と大学生も、深々と頭を下げる。

 四人は連れ立って店を出て行った。田中は不思議な気持ちでその後ろ姿を見送った。

 翌朝、田中は新聞の死亡欄でその理由を知ることになる。昨夜店を訪れた四人は、一年前に交通事故で亡くなった一家だった。そして今日は、彼らの命日だったのである。

 田中が働くコンビニは、事故現場のすぐそばに建っていた。毎年この日、彼らは最後の買い物をしに来るのだという。近所の人がそう教えてくれた時、田中の心に温かいものが流れた。

 その夜も、田中はいつものようにレジに立っていた。来年もまた、彼らを迎える準備をしながら。

1105文字 | 完結
最後の客 - ショートショート | 福神漬出版