彼女のメッセージは、いつも午前三時に届いた。
田島悟はその規則性に、最初は気味悪さを覚えた。出会いアプリで知り合った女——花と名乗った——は、昼間には一切連絡をよこさない。夜が深まるほど、文章は長く、饒舌になった。
「眠れないの。あなたのことを考えると、余計に」
悟は苦笑しながら返信した。付き合って二ヶ月。まだ一度も会っていなかった。
花は写真を送ってこない。声も聞かせない。「顔に自信がないから」と言うが、文字だけのやり取りは、かえって甘く染み込んだ。悟は活字中毒のようになっていった。
「今日、駅前のカフェに行った。あなたが好きそうな場所だと思って」
その文の直後、花は店の名を添えた。悟が先週、「よく行く」と話した店だった。
「偶然だね」と悟は打った。
「そうかも」と花は返した。
三ヶ月目に入ったころ、悟は直接会うことを切り出した。花は長い沈黙の後、応じた。
「じゃあ、その駅前のカフェで。土曜日の午後二時。私、白いコートを着ていく」
悟は約束の朝、念入りに身支度をした。鏡を見て、少し笑った。こんなに胸が高鳴るのは、いつぶりだろう。
カフェに入ると、白いコートの女が窓際の席に座っていた。ひと目で花だとわかった——気がした。だが、それは根拠のない確信に過ぎなかった。悟は声をかけようとして、足を止めた。
女のスマートフォンの画面が見えた。
チャットアプリが開いていた。
女は熱心に文字を打ちながら、入口のほうを時折ちらりと窺っている。待っているのだ、と悟は思った。
悟もスマートフォンを取り出した。花にメッセージを送った。
「今、カフェの前にいる。緊張してる」
既読がついた。
女は顔を上げず、画面を見たまま、小さく微笑んだ。
悟の胸に、温かいものが広がった。彼は大きく息を吸って、女のテーブルへ向かおうとした。
そのとき、女が返信を打ち始めた。
悟のスマートフォンが震えた。
「私も。早く会いたい」
悟は画面から目を上げた。女はまだ、入口のほうを見ていた。
悟の視線の先、女の視線の先、その扉が開いた。
入ってきた男は、きょろきょろと店内を見回している。右手にスマートフォンを握っていた。
女が立ち上がった。白いコートの裾が揺れた。
悟のスマートフォンには、もう既読がついていた。