処刑は夜明けに行われると聞いていたが、男はまだ生きていた。
牢番のパウロは鍵束を鳴らしながら廊下を歩いた。石造りの回廊に、足音が規則正しく響く。今夜が最後の見回りになる。明日の朝、この男は十字架にかけられる。
「眠れないのか」
パウロは格子越しに囚人を見た。囚人は藁の上に座り、壁に寄りかかっていた。目が合った。穏やかな目だった。
「あなたこそ」と囚人は言った。「眠れていないでしょう」
パウロは答えなかった。確かに眠れていなかった。三日前からだ。妻が言ったのだ。あの男の話す言葉を聞いてきなさい、と。妻はこの男の噂を信じていた。
「妻が病気なのです」パウロは格子に手をかけた。「もう長くないと医者は言っている」
囚人は静かに頷いた。
「あなたは本当に、奇跡を起こせるのですか」
問いかけながら、パウロは自分が愚かだと思った。明日には死ぬ男に何を聞いているのか。だが口は止まらなかった。
「私はあなたが裁判にかけられるのを見ていました」とパウロは続けた。「群衆の中にいました。あなたが黙っていたのを覚えています。なぜ弁明しなかったのですか」
囚人は少し笑った。
「言葉で変わる心ならば、初めから変わらない」
パウロには意味がわからなかった。わからないまま、夜明けが来た。
処刑は予定通り執り行われた。パウロは職務として立ち会った。群衆は叫び、兵士は槍を持ち、空は昼なのに暗くなった。パウロはただ見ていた。
七日後、妻の熱が引いた。
医者は首を傾げた。説明がつかないと言った。パウロは何も言わなかった。
それから三十年が経った。
老いたパウロは石畳の上に膝をついていた。周囲にも同じように膝をついている者たちがいた。皆、あの男の名を口にしていた。皆、あの夜のパウロと同じ目をしていた。
役人が近づいてきた。
「お前はあの男を知っているのか」
パウロは顔を上げた。役人の顔には見覚えがあった。三十年前、処刑場に立っていた兵士のひとりだ。
「知っています」とパウロは答えた。「最後の夜に、言葉を交わしました」
役人はパウロの胸倉を掴んだ。
「証人か。ちょうどいい」
引き立てられながら、パウロは思った。あの夜、囚人は言った。言葉で変わる心ならば、初めから変わらない、と。
自分の心はいつ変わったのだろう。格子の前か。妻の回復の朝か。それとも——あの穏やかな目を見た瞬間か。
石畳に引きずられながら、パウロにはもうわからなかった。
裁判は翌朝に行われると、役人は言った。